民族楽器奏者が樺太アイヌの トンコリを作ってみた結果

こんにちはTokyo modal music labで
ラバーブやリラなどリュート系弦楽器担当してるウエダです。
皆さんはアイヌ楽器トンコリご存知ですか?
三味線や琵琶など中国文明の影響のフィルターを感じさせない
透き通った音色のシンプルな5弦の琴、トンコリは
樺太アイヌが弾いておられました。

私はこの5年間、中央アジアや中東の音楽の研究と演奏を通じて
トンコリに似たような楽器、ゲジャークやリラなどユーラシア民族楽器の演奏家としての立場から、あらためて楽器のルーツを探る
ものづくりの旅を決意して早速トンコリをコツコツ制作してみました。

民族楽器奏者がトンコリを制作して気がついたポイントは
  • ユーラシアの擦弦楽器がルーツ
  • 意外にシンプルな道具で作れる(制作期間だいたい1ヶ月)
  • ヘソからタマシイを入れる不思議
  • 音量がめちゃ小さい
  • かつては皮張りトンコリも存在した

楽器を作ることって、演奏よりも深く素材に向き合ってる時間が長いので
驚くべき発見がたくさんあります、上にあげた
5つのポイントをそれぞれ、わかりやすく解説しますね。

トンコリのルーツはユーラシアの擦弦楽器

これは北海道大学の篠原智花・丹菊逸治さんの論文にもあります
トンコリはコーカサスの長細い擦弦楽器シチェプシンや
私の演奏する、ギリシャ・トルコの黒海ケメンチェやパキスタン北部のゲジャークにとてもよく似ています。

左 黒海ケメンチェ 右トンコリ

アタマの形状、細長いボデイ
ほんとにそっくりですが
黒海ケメンチェは弓で擦る擦弦楽器
トンコリは指で弾く撥弦楽器なので奏法は異なります。

論文でも指摘されてるように、この形状だと弓で弾く方が圧倒的に安定して演奏できるのですが、樺太で弓の原材料である馬の毛の入手が難しくなって指で弾く楽器になっていったとも考えられます。

意外にシンプルな道具で作れるトンコリの魅力

今回使った道具は左からこんな感じです

  • ノコギリ
  • ナタ
  • 丸のみ、平のみ
  • 皮裁ち包丁
  • 彫刻刀
  • チェロ用リーマードリル(手動)
  • 穴あけ電動ドリル
  • 木製のトンカチ

アイヌのマキリみたいな小刀があった方がいいかもですが
私はナタと皮裁ち包丁で代用しました。
すべて手作業ではなく、ボデイの大まかな穴掘りは木工作業所にお任せしました。 電動ドリルなどがなくても、むしろ手動で穴あけの方がきれいに作れるかもしれません。
ありがたいことに公益アイヌ会の資料
手順や道具の説明まで、めちゃくちゃ詳しくあったので
参考にさせていただきました。ほんとうにありがたいです。

ヘソからタマシイを入れる不思議

トンコリは人間がモチーフとされそれぞれのパーツはアタマ、首、足などに例えられます。他の楽器では見たこともない、トンコリの特徴としてボディにサウンドボードを接着する際
タマと呼ばれるタマシイを模したビーズ玉を
コロンと入れて蓋をします。
そのためヘソの穴はタマがコロコロ出てこないような
大きさにします。

トンコリの音量が小さい理由は

こうして出来上がったトンコリを
弾いてみた結果民族楽器奏者として気がついたことがあります
それは。。。。

音量がめちゃくちゃ小さい

音が小さいのは日本の住環境だとかえってメリットになり得るのですが
それにしても、他の民族楽器と比べてもトンコリの音量は比較的小さいです。

それは、あなたが初めて作ったものだからじゃない?
と思われるかもですが
先日、プロのトンコリ制作家の作った美しいトンコリを拝見させて
もらったのですが、やはり他の弦楽器と比べたら音量はかなり小さかったです。考えられる理由としては

くり抜き楽器は板組み楽器より響きにくい

という点です、
ギターやバイオリンなど近世に発達した
楽器は薄い均一の厚さの板を貼り合わせてできています
トンコリやリラ、ラバーブなど多くの民族楽器は
もっと昔の手法をモチーフにしているので
材木をくり抜いて作ります、このため
箱鳴りがしにくく、
音量が小さいというのも考えられます。
それでも、たしかに他にも音が小さい弦楽器はたくさんあります。

トンコリによく似た楽器パキスタン北部のゲジャークも音量は小さいのですが、音質は豊かです。
でもやっぱり、他の楽器と合わせたりしたいなあ
音量が小さすぎるとできるのかな?
そこで、思いついた仮説があります。

トンコリのボデイの一部に皮を張ること

アフガニスタンのラバーブはトンコリみたいに
長細ーい楽器ですがボデイ全体に皮を張ってるのではなく
サウンドボードと皮の両方があります。
なので次回はこの方式を取り入れたトンコリ制作にチャレンジします。

トンコリとアフガンラバーブ

ところで、トンコリに皮を張るというアイディアは
私が独自に考えたのではありません。
こちらのインタビューにもかつて皮はりのトンコリが存在したと言っておられます。

考えても見れば
薄い板を作ること、
均一な厚さの板を製材するのって、
電動工具とかないと難しいんですよね
私は材木屋さんにこのプロセスもお願いしました。
かつて樺太や北海道において
薄い板を作るより、鞣さない動物の皮を張るのは
合理的だったのだとも思います。

まとめ

というわけで、
中央アジア、中東の弦楽器ラバーブやリラを5年以上
演奏してきた立場から
トンコリを作ってみた結果わかりました
次は皮張りのトンコリ
アフガニスタンのラバーブみたいにボデイに皮とサウンドボードを張った
トンコリ制作にチャレンジしますのでご期待くださいませ。

 

 

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