【バイオリンの起源】東欧〜トルコの民族楽器ケメンチェ(リラ)とは

こんにちはTokyo modal music labのウエダタカユキです。今回は私が担当している楽器
バイオリンのルーツ民族楽器ケメンチェ(リラ)について深堀りしますね。

バイオリンのルーツ東欧バルカン半島?

今では西洋を代表するような楽器のバイオリンやチェロですが
そのルーツのひとつとされるのが
東欧やバルカン半島〜トルコの民族楽器ケメンチェです。
トルコでは古典音楽の楽器としてもとりこまれて
深い伝統にねざして、体系化された学びの理論が確立されてます、
かたや東欧では、民族舞踏の伴奏などに使われる弦楽器は

  • ケメンチェ トルコ語
  • リラ    ギリシャ語

と呼ばれて、ぜーんぜん言語系統が違う
民族で国や地域を越えて愛されているのがわかります。

18世紀の細密画ミニアチュールより引用

オスマン時代の細密画にも登場するケメンチェ(リラ)は
ギリシャ系の人々の間で細長いウードみたいな楽器(Lavtaラウタ)や民族舞踏とセットで親しまれていたのがわかります。
上の絵のように、
貴人をもてなす時などに使用されていたのかもしれないですね。

14世紀セルビアの修道院に描かれたケメンチェ(リラ)

14世紀といえば、まだイタリアでバイオリンが発明される100年以上前ですが、ケメンチェ(リラ)のような擦弦楽器が東欧のセルビアで使われていたのがこの絵からも確認できます。

弦楽器といえば、そんなに音量も大きくないので
室内楽のイメージですが、この絵から推測するに
野外でも用いられたのがわかります。

こちらも18世紀のものとみられるケメンチェの演奏ミニアチュール、
ダブダブのズボンが今でいうサルエリパンツですね。
ギリシャ系の女性と思われる人のダンスにあわせての演奏シーン。
いずれの資料からもダンスとともに演奏されたのが
わかりますね。
このような資料からも、民族舞踏と深いつながりのあるケメンチェですが、
オスマン古典音楽の楽器、
クラシック・ケメンチェとも呼ばれて
現在、イスタンブールでは優美な古典楽器として受け継がれています、
私が訪れた時には、とくに若い女性の奏者が多くみられました。
小さくて、持ち運びもしやすく
曲線を描くような演奏方法が、女性に人気なのかもです。

こうしてイスタンブール(かつてのコンスタンティノープル)に
民族楽器として受け継がれてきたケメンチェですが
優雅な古典音楽の楽器としてとりこまれたのは
実はそんなに昔のことではなく
19世紀末から20世紀初頭に活躍した音楽家
タンブーリ・ジャミルベイにより
ケメンチェは古典音楽の楽器として使われるようになったといわれています。

 
オスマン帝国末期の演奏家タンブーリ・ジャミルベイTanburi Camil beyの演奏

現存するケメンチェのもっとも古い資料だとおもわれる
石に刻まれたレリーフは、今から約1000年くらい前にさかのぼります。
当時は東ローマ帝国が、地中海の覇権をにぎっていたので
ビザンティン・リラと呼ばれていました。

Byzantine lyra より

ペルシャ人の学者により、東ローマ帝国の代表的な楽器として記録されていたので、バイオリンやチェロが作られる数百年も前から使われていたのが確認できます。

  • 1クラシックケメンチェ Classic Kemence
  • 2黒海ケメンチェ    Karadenis Kemence
  • 3共鳴弦リラ      Lyra with Sympathetic strings
  • 4クレタンリラ     Cretan Lyra
  • 5リラキ        Lyraki
  • 6ガドルカ       Gadulka
  • 7ケマネ        Kemene
  • 8リジェリカ      Lijerica
  • 9カラブリアンリラ   Calabrian lira

現存する
爪で音程をコントロールする
ケメンチェ・リラ系の楽器は
今でもこのように
東欧バルカン半島を中心に、たくさんの国に分布してます。
それにしても、たくさんの呼び名ですが
そこは民族のモザイクのバルカン半島なので
トルコ語、ギリシャ語の他に
ブルガリアのようなスラブ系に影響をうけた言語もあるので
おなじような楽器でも呼称がたくさんあるのですね。

ヨーロッパ古楽器としてのリラ

リラがバイオリンのルーツだというもうひとつの根拠に
リラ・ダ・ブラッチョという古楽器があります

Lyra da braccoより

イタリア語で直訳すると腕のリラとよばれるこのでっかいバイオリンみたいな楽器は15〜16世紀に吟遊詩人の朗読などの伴奏で使われていました。
今の西洋楽器にはみられない共鳴弦は夢のような響きを得るのに
とっても効果的なので、詩人の朗読にはぴったりなのでしょう。

西洋楽器にはできない民族古楽器の描く世界

民族楽器に夢みたいなリバーブ感をかもす
共鳴弦があるものがあります。
私のリラにも多くの共鳴弦がついているので
共鳴弦なしに比べると教会の中で弾いているような音がします。

リラ・ダ・ブラッチョのように昔の西洋楽器には
共鳴弦がついていたものがありましたが、
現在のバイオリンなどの西洋楽器には
共鳴弦がありません。

この理由として
ルネサンス以降の西洋音楽が
大きな会場で遠くに音を飛ばすことを重視した
ピアノの登場とともに、いろんなキー(調)に対応する必要が出てきたなどの理由が考えられます。

私は実際に共鳴弦がついた弦楽器
リラやラバーブをいろんな会場やアンサンブルで演奏する機会がある
体験からも
民族古楽器は、前に音を飛ばすというより
内にこもるような特徴があり
音量は現代の西洋楽器にはとてもかないません。。。。。。

それでも、音質においては
だれが繊細で優美な響きがあり
音量はちいさくても豊かな音質が体験できます。
コンサートホールでの演奏には、あまり向かないけど
ちいさな空間で、微細でリッチな倍音を味わうには最適なのです。

この特徴は
今の日本の住環境にはかえって効果的かつ
最適ともいえるでしょう。
ケメンチェなどの弦楽器は
バイオリンに比べて音量はちいさいので
近所迷惑とかになりにくいです😌

プラスして爪と弓で弾くので
バイオリンなどにはない、独特の掠れ音による
豊かな周波数が体験できます。
オリエント世界の音楽には
マカーム(モード)を使い分けることにより
音楽療法のような使われ方もしてきたので
西洋楽器にはない特徴をいかして
私たちの暮らしの中にとけこむチャンスは十分にあるはずです。

ケメンチェの難易度について

ここまできたら、ちょっと自分でも音を出してみたいなと
思うかもなので、実際カンタンなのか?
難易度についてお話しますね。

値段も西洋楽器ほど高くなく
5万〜10万以内で入手かのうなケメンチェですが結論をいいますと
難易度はいままで
どんな音楽的な体験をしてきたのかに左右されます。
ピアノを習っていたことがある
ギターをやってたことがある
ような方でしたら
楽器の経験がない人よりも格段に上達が早いのは確実です。

英語がある程度わかればフランス語やスペイン語も
覚えやすいみたいなのに似てるかもです
車が運転できたら、小さいバイクの免許もついてきますよね。

私はギターやマンドリンなど弾く弦楽器(撥弦楽器)を
15歳のころからやっていましたが
ケメンチェなどの弓でこする楽器(擦弦楽器)の経験は
5年くらい前までまったくありませんでした。
少しづつ、コツコツ練習して
ちいさなライブ(本番)を設けることで
少しづつですが確実に弾けるようになるのは体験からも断言できます。

日本の伝統楽器ともカンケーがあるケメンチェ

ぜんぜん日本とカンケーないように思えるケメンチェですが、
実は樺太アイヌの楽器、トンコリのルーツはコーカサス地方のケメンチェみたいな擦弦楽器シプチェシンだという論文も発表されています。
弦楽器奏者の立場からもこの論にとても強く惹かれているので
まずはトンコリを制作しながら、ケメンチェとの融合を目指しています。

 

ケメンチェとトンコリを融合させた楽器を製作中なので
また機会をみて、研究と実践のプロセスを発表しますね。

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